私は彼に愛されているらしい２

何度となく仕事場の話をしているせいか、お互いの周りの人物の名前は頭の中に入っていた。室も担当車両も同じの舞は有紗の話の中でもダントツに出現率が高く、嫌でも頭の中に残ってしまったのかもしれない。

「じゃあ有紗の話し相手は君塚さんか東芝さんか。」

「話す暇もあんまりなかったけど、確かに君塚さんはお菓子をくれた。東芝さんとは指導の話がメインで二人とも必死だったな。…大輔よく覚えてるね。」

答えたはいいけどあまりにも具体的な質問に有紗は目を丸くしてしまった。確かに舞に続いて君塚も東芝も有紗の生活基盤になるほど関わり合いの深い人物だ、だから自分のことを話す時には名前が出てくることも多いかもしれないが覚えているなんて思いもしなかった。

しかも話し相手なんていうポジションは本当に親しい間柄である認識をされているということになる。

「だいたい話す内容は一緒だからな。君塚さんにからかわれただ、東芝さんにちょっかいかけられただ。全部似てる話。」

「あ、そう…。」

深く頷きながら笑う姿はまるで全て見透かされているようで有紗は恥ずかしくなってしまった。

そう、こいつは昔からお前の考えていることは分かるというような態度をしてくる。

その昔まだまだ若かった頃はそれに勘違いをしてしまってうっかり恋心を持ってしまったのだ。多分有紗のような女の子はたくさんいて大輔はそれなりに女子からの好感度はよく、好かれることが多かった。

大輔の歴代の彼女を何人か知っているが、全員相手から告白されて始まったという記憶がある。それは高校の時から変わっていないから、きっとその前からもずっとそうだったんだろう。

「この天然たらし。」

水を飲む寸前に微かな声で毒を吐く。有紗の企みは成功したようで大輔には気付かれていないようだ。

思わせぶりな態度は大人になるにつれて磨きがかかっているものだから性質が悪い。案の定、言い寄ってくる女子は多いようで何故か相談事を持ち込まれると愚痴っていた。

それは大輔がそうさせたんだよと、何度言っても肩を竦めて首を傾げるだけだったが本当に分かっていないのだろうかと有紗は疑問に思っている。

「大輔は？相変わらず忙しいの？」

「ああ。」

「大変だね、辛くない？」

「分かってて入った会社だしな。幸いにも人間関係を含めて恵まれた環境で仕事させてもらってるから楽しんでやってるよ。キツイけど。」