私は彼に愛されているらしい2

そう言って大輔は店員に向けて無言で手を挙げた。

いつもなら一言二言呟いたり悩んだりしてから同意することが多いのに今日は無条件に頷いたことに驚いてしまう。メニューを熟読するくらいの時間があったのだろうかと。

少し申し訳なく思ったが有紗は何も言わない大輔の気持ちに甘えて素直に好意を受け取った。そして水を口に含みながら落ち着きのある態度でオーダーをする大輔の姿を盗み見る。

いつからだろう、声も出さずに意思を表示するようになったのは。

昔は大きな声ですみませんと叫んでいたのに、いつの間にか大人になっていったのだと何故か急にしみじみ思ってしまった。

自分の分の注文もしてくれる、そんな小さなことでもエスコートしてくれるようになった時は少し感動したものだ。そしてちょっと嬉しかったのも覚えている。

大輔が大人の男になった分、自分も大人の女にならなければと会計が終わった後にこっそりと財布を開けて自分の分を渡すようにもなった。可笑しなもので何を勢いづいたのかマナー講座も受けたりして一生懸命になった時期もある。

それが活きて年上の彼氏ができた時には喜ばれたものだが、そんな彼氏とも長くは続かなかった。どれだけTPOに合わせた衣装や立ち振る舞いを身に着けても考えまでは急成長出来なかったらしい。

まだ幼いと、遠回しにそう言われ続けて結局は別れてしまったのだ。

当時はそれなりに落ち込んだが、それもいい思い出だし勉強になったと思って復活にはそんなに時間はかからなかった。やはりそんな軽い気持ちも見抜かれていたのだろうなと有紗は過去の自分に目を細める。

「仕事忙しいのか?」

ほんのりとレモンの味がする水を口につけながら大輔が尋ねてきた。少し気を遣ったラフ過ぎないボタンダウンのシャツは相変わらずよく似合う。お気に入りだと休みの日に付けている腕時計も適度なアクセントになっていた。

高校の時から比べると大輔は随分と大人の男になったのだと感じる。女は化粧をすればするだけ歳を重ねていけるけど、大輔は内側から感じるものが強くて有紗は羨ましかった。

自分もいい年の重ね方が出来ているのだろうかと考えてしまう。後ろ向きな気持ちはきっと疲れているからだろうと大輔の言葉に素直に頷いた。

「今週は特にね。先輩が研修で居なかったから業務が倍になっちゃって、来週から戻ってくるから少しは楽になる筈。」

「ああ、舞さん?」

「そう、舞さん。みちるさんもね。」

「そりゃ大変だな。」