私は彼に愛されているらしい2

吐き捨てるように呟けば手にしていた携帯を再びポケットの中に片付け有紗は一息吐く。

「こんなとこで油売ってる暇があるなら仕事をしてくださいよ。基本給分の働きは義務でしょ。」

「休憩してただけで何でそこまで言われなきゃいけないのよ。私たちが働いてない証拠でもある訳?」

「自席PCの稼働時間とIDカードのログ履歴見れば行動の予想位つきますよ。この技術棟は部屋の入口全てに認証システムがあって、IDカードをかざさないとドアが開かないんですから先輩のログくらい簡単に取り出せます。」

有紗の視線は西島の胸元にある社員証も兼ねたIDカードにそそがれた。

「そのフロアにいた時間、自席にいる時間、だいたいバレるし監視カメラの記録で追えば言い逃れは出来ないですよ。」

言葉に誘われるように西島も秋吉も天井を見上げたが、さすがにトイレの中にカメラは設置されていない。

図星ともとれる動きはまさに有紗の思惑通りだった。

「バレちゃいますね、先輩は遊んでたんだって。」

「あんた、それ以上言うと。」

「そんな仕事もろくにしない先輩方たちに面白おかしく話題にされるほど安くはないんです。二度とウチのアシスタントを見下さないで頂けますか?」

凄む様な顔つきで声も低く怒りを露わにした有紗に西島も秋吉も驚きの方が先に出てしまう。

瞬きを重ねてさっきまで抱いていた感情を一度リセットしてしまう程の威力を持った有紗の言葉は意外過ぎたのだ。

「え?アシスタント?…てことは、吉澤さん?」

「はあ?そこ?」

拍子抜けしたというのが2人の素直な感想だろう。

しかし有紗はいたって真面目に、しかも真剣に舞に対しての言葉で腹を立てていた。

「何それ、仲良しごっこのつもり?ちょっと面白い。」

さっきまで完全に余裕を失い様子ばかり窺っていた秋吉が自身を取り戻したのか態度を豹変させる。