私は彼に愛されているらしい2

「きゃっ!」

そこはトイレへの入口、中にいた彼女たちとバッチリ目が合い顔を突き合わせる場所での犯行に西島と秋吉の動きは完全に止まった。

西島はマスカラを縫っていたところ、秋吉はおしろいの最中だったらしい。

「楽しそう。タイピングも化粧の厚塗りも同じ様に時間がかかるんですね。西島先輩、秋吉先輩?」

「も、持田さん!?」

「コピーと社内便配布以外の仕事、貰えてないんですか?」

どうしてだろうか、こういう場面では作ろうと思わなくても自然と笑顔が出てしまう。

有紗はポケットに手をいれたまま更に足を踏み入れてしっかりと2人の顔を捉えた。

これが裏の顔か、分かってはいたけど目の当たりにして有紗の中の感情が少しずつ変化していく。

「はあ?何よそれ。あんたこそ、なんでこんなところにいるのよ!仕事しなさいよね!」

「そうですよね。私は確かに工場帰りで用を足しにとここに寄った訳ですけど、早く自席に戻らないと給料泥棒扱いされそうです。」

そう言って有紗はポケットから自分の携帯を取り出して存在を知らしめるように胸の位置で振った。

その行動の意味が分からない2人はほぼ同時に何のつもりかと疑問符を浮かべる。

「お2人の会話が全部録音できるくらい、私は仕事をしていなかったんですから。」

言葉を失った2人はこれ見よがしに揺らされた携帯を見つめて固まった。

そして有紗を睨んで手にしていた化粧品を握りしめる。

「悪趣味…っ!」

「この会話の内容ですか?それとも、品のない会話を記録に残した私が、ですか?」

わざとらしく惚けた顔をして首を傾げる有紗は西島と秋吉、2人の顔を見つめてゆっくりと口角を上げた。

表情を歪めて言葉をつまらせる西島に秋吉は助けを求めるよう一歩近付く。