私は彼に愛されているらしい2

さて問題はどの辺りで彼女たちの顔色を悪くしてやろうかと厭らしい部分も顔を出してくる。ここで引けば自分の中には悔しさしか残らないなんてやってられないのだ。

社会人にまでなって騒ぎを起こしたくはないが、そこはこの立派な脳細胞で計算してやろうと有紗は光が漏れる入り口から向こうを睨んで目を細めた。

「ま、吉澤さんにしてもいい気味だけどね。やたら態度デカイし、ちょっと仕事できるのかもしれないけどアシスタントであの態度はないわ。」

「ホント。せっかくこっちから話しかけてあげてるってのに年取るとああもふてぶてしくなるのかしらね。」

「嫌な年の取り方だけはしたくないわ。やっぱり結婚するってことは女を下げるのかも。」

「ええ?まあ、吉澤は私と2個しか違わないもんね。2年後ああなっちゃうのかしら。」

「結婚生活に疲れているからでしょ。悪い旦那にあたったのよ。やっぱり納得いった相手じゃないとね、なかなかいないから困ってるんだけど。」

「秋吉は理想が高すぎなのよ。」

「西島さんもでしょ。」

そのルージュ良い色だなんて互いを褒め合うことも忘れず2人は存分に自由に使える時間を満喫しているようだ。

傍で誰かが聞き耳を立てているかなんて思いもしていないのだろう、楽しそうに弾む会話は遠慮なしに廊下まで漏れていることにも気付いていないのだ。

「でも吉澤もさ?子持ちなんだから控えめに働いて大人しくしてないと、そのうち家庭崩壊しちゃうんじゃないって思っちゃうわ。」

「てか、もうしてたりして。」

「ふふ。そうよね、残業出来る時点でだいぶ旦那にやらせてんでしょ。恐妻ってやつ?こわーい。」

壁の向こうで2人の笑い声が重なった、その瞬間に有紗の中のリミッターも振り切れたようだ。

壁に貼り付けていた背中を剥がして遠慮なしに2人の前に現れては工場帰りの安全靴で力任せに壁を蹴りつけた。

ドンッと鈍い音が空間に響く。