私は彼に愛されているらしい2

有紗はそう答えるとコピーを取りに席を外して依頼用の用紙を作る手順を踏み始める。仕事の進め方も速くなった、効率もよくなった、あの失敗以来有紗の成長は目に見えて分かるくらいに伸びている。

何があったのかは知らないが、有紗にとって何かが大きく変わったのだろう。

そう胸の内で静かに納得すると東芝は手元にある自分の仕事に集中し始めた。

東芝に合格と指導を貰った有紗は舞に仕事をお願いすべくその準備に取り掛かり始める。舞に回せるという事はその箇所が終わりになったという事だ。

やっと1つの山を越えたという安堵とこれからやらなければならない事への気合で深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。

とりあえずはこの図面を舞に渡さないと次にも進めないのだ。

「舞さん。」

指示を記入した図面を持って有紗は端末で作業をしている舞の下へと向かった。

ちょうどキリがいいところで話しかけられたのか、舞はすぐに顔を上げて有紗を迎え入れてくれる。

「すみません、仕事の依頼です。いいですか?」

「なに?」

舞は手を差し出して図面を受け取る姿勢に入った。どうやら受け入れられる状態にあるようで有紗はとりあえず安心する。

図面提出も終わった今、少しはゆるやかな時期にある筈なので舞も余裕があるようだ。やはりこの時期にバタバタと忙しく動いているのは有紗と東芝、沢渡くらいらしい。

「この部品なんですけど、この前メーカーから形が変わったと連絡があったのでデータの書き直しをしていただきたいのと…。」

変更点を記した紙のコピーを舞に渡して有紗は手元にある原本を見ながら説明を始めた。この後はまた工場に出向かなければいけないのだ、逸る気持ちが言葉を早くする。

しかし聞き手となる舞は要点だけを説明していく有紗の声をいつの間にか聞き流していた。

視線は図面を持つ有紗の左手、特に薬指に集中している。あれからも一向にメールの返信がない舞はやはりどこかモヤモヤとした気持ちを引きずってしまっているのだ。