私は彼に愛されているらしい2

「私も分かりません。」

あまりに強い言い方が今の有紗の心境を表している気がしてみちるは微笑ましそうに息を漏らす。

「そのことを子供がいる友達に話したら、子供が生まれた後にその意味が分かるって言われたのよ。自分の収入で家族を養っていくことの覚悟がどれだけ大変かは想像を越えるものなんだって。」

まだまだ外気との差が無い車内では吐く息も白い。有紗はみちるの言葉の意味が分からず表情だけでその疑問を投げた。

「逃げ道を自分で断つって ことなんだって。どれだけ辛くても今いる場所で戦って社会的地位を確立していく、そう簡単に仕事を辞められなくなるってことよね。」

「あ。」

かつて味わった身に覚えのある感情に有紗の表情が変わる。

あの時有紗は自分から辞めようとは意地でも思わなかったが、もし辞められない立場に自分があったとしたらどうだったかと考えてしまった。

それはきっと、想像するよりも重い負担だ。

「私が言ったことなんて目先の雑務なだけで、アカツキくんは一生背負う覚悟なんだと思ったら…恥ずかしくなったよ。」

友人の言葉の意味も、みちるの感情も分かる有紗はどこか納得がいかない面持ちで口を固く閉じた。

「男の人の大半はそう考えてるらしいよ。なかなか結婚に踏み入れられないのも覚悟が決まらないからなんだって。だから大輔くんは最初からその覚悟で有紗に告白したんじゃないかな。」

大輔の話題になったとたんに有紗の表情がくもり 、視線も隠すように俯く。特に口に出来る言葉も無い有紗はただ黙っていることしか出来なかった。

大輔の覚悟は自分には関係のない話だと心のどこかで叫んでいる誰かがいる。

そんな捻くれた自分に気付いていてもどうにも抑えきれない憤りがまた有紗を縛り付けた。

まるで子供、目の前を暗くする言葉が浮かんだときに聞こえてきた声が有紗の視界を明るくする。

「私はさ、無理して結婚するもんじゃないと思うよ?」