夜も更け、1人、1人と部屋に戻っていく。

私はただ、譜面と向き合い、ひたすら練習していた。


「佐々木、まだ寝ないの?」


声に驚いて振り返ると、部屋にはもう和希くんしか残っていなかった。


「あ、うん。もうちょっと」


「そっか。頑張って」


短く言い残し、私に背を向ける彼。


だけど、数メートル離れたところでくるっと私の方に向き直った。


「え?なに?忘れ物?」


後姿を見つめていた私は驚いて、少し取り乱す。


「いや、あのさ、さっき吹いてたフレーズね、この音とこの音を意識してみて」