【side陵】
「百瀬、ここの問題分かる?」
数学のノートを眺めていたとき、前席の早川が振り返ってきた。
早川の手元には見開いたノート。
問題の解き方を聞いてきたんだと思ったが、ノートの端を見た瞬間その気は無くなった。
"野々田さん、今フリーらしいぜ"。
――正直どうでもいい。
「今言うか?それ」
呆れて冷めた目を向けると、早川はククッと笑う。
「すげーチャンスじゃね?俺、割りと本気だし」
「へえ、頑張れよ」
野々田ひかり、あの女は話したこともほとんどないが、瑞希の彼女だったと思うと少し腹が立つ。
今の俺はそんなことを言えないが。



