シートを倒しながらずっと目をつぶっていた



冷夏が大好きなアーティストのCDはもう何度繰り返されたのであろう


一曲、一曲流れるたびに俺と冷夏を重ねる……



俺たちの
物語りのようだった



そのアーティストの声までもが冷夏の歌声に変わり聞こえてきて、やっぱり冷夏が頭から離れることなんてなかった。




ー-♪~♪♪~♪――



突然ダッシュボードから無造作に置かれた携帯が鳴り始めた。





ピンクの蛍は姿を現す事はなくても、その音楽が誰からなのかを開く前に教えてくれる



受信メールの相手が、冷夏からだってことを……。





《おはよう!今日は寒いね…昨日は本当にごめんね》




そのメールを見た瞬間、とてつもない痛みが胸に走る。


それを振り切るように唇を噛み締めた。




返信ボタンを押す手は震え


メールを作ることを拒否しているかのようにも思えたが




俺は続けた




《話しがあるんだけど、言っていい?》




暫く時間が経っていたが《いいよ》その殺風景すぎるメールに俺は少しだけ送ってしまったメールに後悔していた。



酸素が薄くなっているのか、鳴り止まない心臓の音が激しすぎて苦しくなる



白い画面を見つめながらも指が動いてはくれない。




『おめぇ~はそれでいいのかよ!!』



どこからか、中西の声が聞こえた気がした。



『逃げてんだよ』



そう冷夏の言葉さえも……



でも、俺はそれらを振りきるようにして



白い画面に1つずつ黒い文字を並べて行った。