電気をつけた。



ずっと暗闇の中にいた俺はあまりの眩しさに目を細め、その瞬間、一番最初に目についた所までゆっくり歩き始めるとそれを抱えた。




“時計”



俺たちをひきさくもの。


ひきさいてしまったもの。






「ねぇ……翔クン」


「えっ?あ、うん……どした?」


「時間、止めちゃおっか」


「えっ……」



そう真剣な顔をしながらも無理やりに口元を吊り上げ笑ったかのように見せかけた冷夏ーー






「翔クン、見て?」



10時半を指して止まっていたこの時計。



「冷夏……時間止めたよ?」



本当に時間を止めたかのように、冷夏の笑顔はこれまでにない位に幸せそうに笑っていた。





この部屋で、幸せそうに微笑んでいたっけ……




嘘のようだ、




だけど、もう限界なんだ。



離れてしまう事を考えるより、


冷夏への気持ちが日に日に大きくなるにつれて、嫉妬心が抑えきれなくなってしまう自分が怖い。



異常な愛を、与え続けてしまったら冷夏から去って行ってしまう。



傷つけることしかできない。



これ以上冷夏を苦しめること、もう出来ない……。




俺が消えてしまえばその時は苦しんだとしても、



いつか色あせ、俺への想いは薄れていくはずだから。




「止まればいいのに……」






そう俺たちは何度、時間に脅え、必死に繋がっていたのだろう。



時計を抱えながら、それを鮮明に思い出しながら



俺の肩はもう震え……



抱え込んでいた時計に目から零れるものが落ちて行く……。





「もっと早くに出逢いたかった」



強いふりをしていた冷夏の弱音……



それが、本音だったことは俺は知っていたんだ



ずっと知っていた……



そして、俺も同じ思いをずっと心の中で叫び続けていたんだよ。




冷夏?



愛する冷夏…−−−




「さよなら……」