ウシロスガタ 【完】

「えっ?マジで?」


時計を見ると1時20分……



「じゃあ、すぐに行くから!!」



嬉しさのあまり、声がでかくなり



電話を切ると同時に、俺の目の前に後から、親父の小指が差し出された。



「はっ?」



振り返ると、親父がニヤニヤしながら『これか?』と小指をたてちらつかせている。



「うっぜぇ~」



そう言いながらも、俺も怒る気にもなれずに、親父の横を通りすぎる。



「女に逢いに行くのか?」




俺の顔を覗きこむ親父はなぜだか嬉しそうだった。





そう、男手ひとりで育ててくれた親父には、いろいろ心配も迷惑たくさんかけてきた。



いつも俺の進む道に口を出したことなんて一度もなくて……



だけど、次第に俺と親父の間には笑顔が消えつつもあった。



俺が心を閉ざしてしまっていたから。



そんな俺もなぜだか冷夏と出逢って変わっていけた、



冷夏が俺の心をこじ開けてくれたから……




「うるっせ~よ」



そう言いながらも、俺もなぜか嬉しくて笑顔でかえしていた。




「今日は帰ってこないのか?」



その言葉に、一瞬だけ動きが止まった俺も、笑顔で『すぐ帰ってきますよ!』そう笑いながら手をあげ、家を飛び出した。




久々に見た嬉しそうな親父の笑顔……




なのに、最後の親父の言葉に胸が痛くなり、玄関と閉めた瞬間にため息を吐き『よし、急ごう!』そう自分に言い聞かせた。