ウシロスガタ 【完】

「冷夏……?」



俺の腕の中で、小刻みに動く冷夏の肩に気づいた。



「んっ……?」



肩を掴んで、俺から引き離し顔を覗きこむと、冷夏は化粧が取れないように、目をこすっていた。


俺と視線を合わさないように……




「どうしたんだよ!」


「ん、目になんか入ったぁ……」



「嘘つくな!!」


「ヘヘッ!ちょっと翔クンのぱくってみたっ!」


舌を出し、おちゃらけてる冷夏の肩を強くつかみ、俺は視線を無理矢理あわした。



「冷夏っ!!ちげーだろ?なにかあったろ?」


「ううん、なんでもないってば~!大丈夫っ」


「冷夏っ!!!!」



もう1度、おもいっきり、自分の方に引き寄せ強く抱きしめた。


俺の背中に腕を回し、くっついてる冷夏の力からも不安が痛いほど伝わってくる。




「お前が、大丈夫って言う時が1番大丈夫じゃね~だろ」



「……」



「バカな俺でも、そのくらい見抜けるよ」



「……」



「どうした……?」



冷夏の体温が伝わり、温かい……


むくもりがここにちゃんとある……



甘い香水の香りが俺の鼻をくすぐり……



おもいっきり抱きしめながら、頭を撫でた。



「もう、こうして抱きしめて貰えることなんて、ないと思ってたから……」



「うん」



「苦しかったの、辛くて、寂しくて、怖くて……」



「冷夏……」



「翔クンのいない世界に……脅えてた」




一生懸命、言葉にならない声で話す冷夏につられて、



俺の肩までもが小刻みに震えだしていた。