ウシロスガタ 【完】

「冷夏っ…!!」


俺は目の前にいる冷夏をおもいっきり抱きしめた。


強く、強く……。



「翔クン、苦しい~」



「うるっせ……」



そして、冷夏も今までにないくらいの力強さで俺を抱きしめていてくれた。



もう離したくない、


このままずっと……。



冷夏のぬくもりを感じられるこの瞬間が幸せなはずなのに



冷夏を抱きしめながらも心の中では、そう強く願っている俺がいる……。



贅沢になっちゃいけねぇ、って


欲を出したら苦しむだけだ、って



嫌ってほど感じたはずなのに、もう欲なんて出さねぇ!って誓ったはずなのに……



俺の偽りのない心の中は、欲ばかりが支配する。



「愛してる……」



俺の胸の中で、抱きしめてる腕の中で小さな声でそう囁いてくれた言葉を、俺は聞き逃さなかった。



《愛してるって言葉って最上級の言葉だよね?》


《俺は冷夏にならいつでも言えるよ》



《そんな簡単な言葉じゃない、冷夏は心からそう思わないと絶対言えないっ!》



《ひでぇ~!》


《そんな簡単に使っちゃいけないの!!》



そうメールでやり取りしてたあの日。



冷夏の“愛してる”を聞ける日がきたら、俺は幸せなんだろうと、ひとりベッドの中で考えていたりした。



「俺も冷夏を愛してる」


「ありがとう」


そう照れ臭そうに俺の胸に顔を埋めた冷夏の頭を優しく撫でた。