「俺、いろいろ考えたんだけど」


「うん」


「冷夏が好きでしょうがねぇ~んだよ」


「うん」


「だけど、不安で、好きだからどうしようもなく不安で」


「……」


「冷夏がいつか、俺の傍から離れて行くと思うと恐くて」


「うん」


「冷夏の言うとおり、俺は逃げようとした」


「なんで?」


ずっと、俺の話しを黙って聞いていた冷夏が俺に問いかけた疑問……



『逃げてるんだよ』



そう、あの時居酒屋で冷たく言い放った冷夏の顔が浮かんでいた。



「もう、これ以上傷つきたくないって思った、これ以上辛い思いをしなくてすむんじゃないか…って」



「逃げた方が楽?自分の気持ちを押し殺して?」



「そう思った、だけどやっぱり冷夏がいなくなる方が辛い」



「好きなもの同士、離れることほど、辛いことはないって冷夏は思ったの、でも…」


「でも?」



「そんな風に胸張って言える状況じゃないんだって思ったりもした、だから初めから……」
「関係ないだろ!!それは関係ない!!」



冷夏が言おうとした言葉を必死に止めた……



聞きたくない言葉だって、一番悲しい言葉な気がするから……




「俺は冷夏の傍にいたい、もう逃げないよ」



「翔クン……」



聞こえていたんだ……


冷夏はきっと俺に気づかないように、必死に話していたと思うけど、



俺は分かったんだ。


静かに、啜り泣いている声が……



情けないな、好きな女を泣かせてばかりで……。




「冷夏、ごめんな」


「なんで?大丈夫だよ!!」



“大丈夫”その言葉に、俺の頬に涙がつたった。