ウシロスガタ 【完】

《いつ?今?》



メールを送信したものの、一歩が踏み出せない俺に、冷夏がせかすようなメールを入れてきた。



「はぁ……」



いっきに気が重くなり、勢いよくメールを送信した男は果たして俺なのか?なんて呑気なことさえ、いっぱいいっぱいの俺の脳の中を横切る。




《今、かけるよ!平気?》



時間を稼ぎながら、次第に増えて行く吸いがらを見つめ、心を落ち着かせた。



《大丈夫》




そのメールを見た瞬間に、俺は電話帳を開き★冷夏★という画面を出し、通話ボタンに指をのせ力強く押した。




“あっ……”



流れてくるメロディーコールは、俺と冷夏の思い出の曲



いつも俺の車に乗りこんだ瞬間に冷夏が勝手にかけていた曲



そして、いつも口ずさんでいた曲



その曲が、なぜかとても悲しい曲のように感じながら心を痛め、目がしらに熱いものを感じる……。





「もしもし?」



曲に聞き入ってた俺は、冷夏の声を聞き、自分の状況を取り戻した。



「あ、もしもし?」



「どした?」



「今、平気なの?」



「公園で遊ばせてる」



「そっか……」



「どしたの?急に、電話なんて」



いつもより、声のトーンが低い冷夏。



電話だから?



それとも、もう俺に気持ちなんて残ってなんか……



一気に込み上げてきた不安な思い……



苦しくて、悲しくて、



その瞬間、何かが張り裂け、俺の黙っていた口が動きだしていた。