ウシロスガタ 【完】

「そろそろ、行かなきゃ……」



俺は冷夏の言葉にそっと体を離し、携帯を開き眼を細めた。




暗闇の中にずっといたからなのか、ディスプレイの明かりがやたら眩しく



まるで俺自身が時間を見ることを拒否してるようだった。



「何時……?」



「あ、今……もう3時半になりそう」



冷夏の言葉に我に返り、時間を見た俺は



見た瞬間に、またとてつもない寂しさが襲ってきていた。



「そっか……」



「帰らなきゃ、まずいだろ?」



最近、冷夏と俺はだんだん帰る時間が遅くなって行ってた。




旦那に怪しまれてもおかしくないだろう。



日に日に歯止めがきかす、1分でも1秒でも……



そう求めていた俺達……



「うん、最近、帰る時間遅くなってるからね」



そんな冷夏の言葉に、なんだか崖から突き落とされた気持ちになり、



開いていた携帯を雑に閉めた。




「よし!帰ろう!!」



冷夏の手をひっぱりながら、立ち上がらせ後ろから、背なかを押した。




「ごめんね……」



寂しそうに俺の顔を覗きこむ冷夏に、



俺は何も答える事が出来ずに、精一杯の笑顔を見せた。




きっと笑えてない笑顔を……。