部屋に立て掛けている時計の目の前で冷夏は立っていた。



「冷夏……?」


「待ってね」



そう言うと時計を手に持ち何かをいじり始めていた。


「よし!これでいい……」


そう言いながら元の位置に戻すと俺の前にひょこんと座った。



「翔クン、見て?」



「あっ……」



時計の針は10時半を指して止まっていた。



「冷夏……時間止めたよ?」



本当に時間を止めたかのように、冷夏の笑顔はこれまでにない位に幸せそうに笑っていた。



「冷夏………」



その笑顔が、俺には凄く切なくて後ろからおもいっきり抱きしめた。



嬉しそうに時計を眺めてる冷夏を見るのが辛くて、頭を引き寄せた。



「冷夏、ありがとう」



悲しすぎた……



時間が経つ事に脅えなきゃいけない俺達の恋愛……



逢ってる時でさえ、俺達は悲しみから逃れる事が出来なくて、




それでも幸せだと……




そう言い聞かせながら、一緒にいる時の一瞬の幸せを噛み締めたいと願っていた。