「いらっしやいませ!!」

丁寧に深く頭を下げたボーイの後に冷夏の姿が俺の目に入った。



俺なんかに気付くはずもなく優しい笑顔を客に向けていた。




咄嗟に見えない位置までずれた俺はなんなのか……。



虚しさだけが残り、ただ茫然としていた。




俺がここに居るなんて冷夏が思うはずもないだろう。



冷夏を近くに感じたくて来たはずなのに、




俺は冷夏に届かない……。



この扉の中にいる冷夏は、俺の手に入る冷夏ではない。




たった数秒にして自分の存在が打ち消された気がして、




冷夏が物凄く遠く感じたんだ……。