ウシロスガタ 【完】

冷夏が店へ出勤したあと、


俺はいつも助手席を見つめながら、とてつもない感情に襲われていた。



まだ、冷夏のぬくもりがかすかに残った車の中で、毎回、大きな不安に襲われる。



“嫌われたくない”



その為に俺はいつも不安を冷夏に言わないでいた。



ちっちゃい男かもしれないが、



それっでも、俺なりに冷夏の前では平気なフリをしていた。




“辛いのは俺だけじゃない”



冷夏の笑顔の裏側にある苦しみも、分からないわけではないから。



「あれ……?」



助手席に光るものを見つけ、俺は手に取った。



「あいつ、落としていったな」



冷夏のピアスが1つだけ転げ落ちていて、俺はそれを握りしめた。



夢を見ているんじゃないか……



冷夏がいなくなった車の中で、毎回、襲ってくる寂しさも、



今日は、冷夏がここにいた証拠があって、吹き飛んでいた。



たった、冷夏のピアス1つだけで、



俺はちゃんと現実にいる事を確信していた。