ウシロスガタ 【完】

「おじゃまします」


そう、笑いながらも、どこか不安を隠せない冷夏の表情を見て、俺の胸も痛んだ。



冷夏が助手席に座った瞬間に、あのなつかしい冷夏の香水の香りが、俺の鼻をくすぐり、なんだか心が落ち着いた。



助手席に座り、俺の方を向かない冷夏に俺は意地悪そうに話しだした。



「さぁて何から話して貰おうかな」


「えっ??」


びっくりした表情で、俺を見つめる冷夏を見た瞬間、
俺は“抱きしめたい”そんな気持ちになっていた。



冷夏の1つ1つも仕草が、俺の心に焼きつけられる



俺はずっと冷夏から目が放せないでいた。



本当に予想もしなかっただろう……



俺の目の前にいる女は、



子供がいて、人妻だって事を……。



そして、夜の世界では、トップをキープし続ける女だって事を……。



その女が、俺を好きと言ってくれた事を。




夢のような、悲しい現実。



それでも、俺は冷夏を見つめながら、



“逃げない”そう、誓っていた。


「俺は聞くよ、全て……」


「うん、いいよ。なんでも答えるから」


少し曇った表情をしながらも、俺を見つめていた。



「でも、ブッチャケ、結婚してるって聞いた時は本当にへこんだんだ」



今なら素直に言える気がした。



違う。今、素直に言わなかったら後悔する。




そう思った……。




「本当にごめんね、でもね騙すつもりはなかったの。ホントなんだよ」



「だから言ったろ?壁があるって……」



「えっ??だって、あの時はまだ何も話してなかったじゃん」


「あのさぁ、俺が何も知らないとでも思ってんの?甘くみんなよ!!」


驚きを隠せない冷夏が、冷静さをなくしていた。