「杏、なんだよこれ?!」

そう叫んだ龍が、私の両肩を掴んだ。

私は龍の方を見た。

・・・そして、精一杯の笑顔を作った。


…龍は知らない。

私が完全に聴力を失った事も。

私が高校を辞めるのも・・・

でもそれがいい、それが一番いい。

私が傍にいると、龍は私を手放さない。



「親父の言った事なんて気にしなくていいんだ。

オレは、杏が傍にいてくれたらそれだけでいいんだ。

何が起きようとも、必ず親父を説得するから・・・

だから、オレの傍にいろ!」


『…ダメだよ』

私は口パクで言った。


「…なんで喋ってくれないんだ?」

龍は私の両肩を掴んだまま呟いた。


『…ゴメンね、私はもう誰にも声を聞かせるつもりはない』

私の精一杯のウソ。

「杏」
切なげな瞳で、私を見つめる龍。