After the rain

「バカにしてません?」
「いや?誰にだって一つや二つ、忘れられない辛い記憶はあるだろうし。」

マスターは、新しいグラスに手を伸ばした。


「まぁさ、俺にもあったわけだよ。かすみと同じような出来事。」
「あたしと同じって、マスターずっと彼女居ないじゃないですか。36で未だ独身。」
「俺さ、ずっと言わなかったけどバツイチなんだよ。」
「え、今、何て?」
「だから、バツイチって。」


もうこのカフェでバイトして4年にもなるけど、今日初めて知る事実だった。


「前の嫁さんと離婚が決まって、家から出てってさ。もう一生女は作るものか!って固く誓ったよ。信じて尽くして、でも全部を踏み躙られたわけだからさ。だから、かすみの気持ちは手に取るように分かるよ。」


その昔、前の彼の事をここで散々罵っていた。

だからバツイチなんだよアイツは!なんて。


それを黙って聞いてくれていたマスターに、一気に申し訳ない気持ちが湧いてきた。