梅林賀琉

この珊瑚、色がどうも趣味悪いな。しかもこれ紫ババァの髪の毛みたいな色しているし)



という具合に頭の中が文句だらけで厭になってしまった。



ぼくはちょっと何かに関心を持ってもすぐに厭きてしまう性格である。



(あ~家に帰るのが面倒でならむうゐのおくやま……)



そんなわけのわからない思考をめぐらしているとそれが通じたかのごとく、昨日のでかい海亀がちょうど珊瑚礁梅林のない開けた地帯の数百メートル先から旋回してこっちにやってくるのが見えた。



ぼくは今の今まで座っていた珊瑚の骸でできたサンゴベンチの角をポキッと折ってしまいながらも近くの岩影に隠れた。



その時である。今度は蛸であろうか、突然ぼくに向かって墨を吐いてきたのである。



こんなことはもちろんはじめてで、思わず叫んでしまった。



「ギャランドゥー!!」



なぜ、この言葉を発したのか未だに謎だが、これがこの時の叫び声だった。その時の様子がまだ脳裏に鮮明に残っている。



この後、奇想天外なことが起こったからである。普通の水の中や海の中で声を発すれば、その声はどの程度響くか、あえて言うまでのこともなかろう。しかし、この海ではそんな常識は通用しない。



ぼくが発した声は三千大千世界にヒビが入って軟膏を塗らねばならぬような大音声が響き渡ったのである。



コンポの音量を大音量にしてスピーカーの音が割れるよりも数億倍の音であった。