梅林賀琉

だが、恐れ入ったのはそれだけではなかった。



困ったことに最後によけた梅干しが塀を越えてどうやら隣家の窓硝子に当たったと思われる。亀吉によると、その家の主は大変な雷おやじらしい。



「雷おやじか。なんか、漫画みたいだな。で、どうすればいいんだ?」


「謝りに行きましょう」


「いやだ」


「どうしてで御座いましょう」


「叱られるのは御免だ」


「では、わたくしが参りましょう。浦島様はここで待っていて下さい」



そういうと、亀吉はすたすたと行ってしまった。どうも、さっきから亀吉が一人で何かをしに行くという場面が多い。それにしても、ぼくはこんなところで全く何をしているのだろうか。このまま、ここで過ごしていてはあの本で読んだ浦島太郎のように、現実の世界に戻ったらお爺さんになってしまうのではないだろうか。



いや、でも亀吉は肝心の玉手箱については触れていないし。そもそも、乙姫様とはまだ腰を据えて話をしていないではないか……。



「どうされましたか?」


「いや、どうも……ていうか、亀吉早くないか。本当に謝りに行ってくれたのか?」


「いいえ」


「また、冗談か」


「いいえ。おやじさんがご不在であらせられました」


「雷おやじにも敬語を使うんだな」


「えぇ。人界以上の方には大概敬語を使うようにしております」


「へぇ~。じゃあ、亀吉と同じ海亀とか動物にはタメ口きいてるのか?」


「ハァイ、トミー。ハァイ、ジェシィ。えーと、それからですね……」


「もう、いいよ。その前に、英語嫌いなんじゃないのか?」


「いえ。英語が嫌いなのでは御座いません。西洋人が嫌いなのであります。」



亀吉は相変わらず、変なやつだと思った。ぼくにとっては西洋人が嫌いなのも西洋人の大半が操る言語が嫌いなのも同じことのように思えて仕方なかった。



しかし、亀吉は自分からその理由について触れてこなかったので、ぼくは黙っていると、また亀吉の方から口を開いた。