梅林賀琉

「しかし、それは過去の栄光だ」つまり、過去は千万天人力なるものを持っていたことになる。



さらに続けてぼくは言った。



「それがしは実戦における戦法も戦術も武器の使い方までも忘れておるであろう。それゆえ、それがしは皆の足手まといになる。亀吉一人で行かれたほうが良かろう。うん、その方が良い」と言うなり、勝手に頷いて逃げた。



すると、亀吉があとを追ってきて「また、浦島様らしからぬご冗談を申しましたね」と言う。



ぼくは旅館の玄関から外に出ようとしたが、一時停止して応えた。



「冗談ばかり申すのは亀吉の方であろう」



ふり向くともう後ろには亀吉がいる。



「では、試みてはいかがでしょう。まずは、攻めで御座います。太刀さばきを拝見させていただきます」


「そうか……ならば、承知した」



ぼくは亀吉にそう言われ、渋々承諾した。もう、逃げる気にはなれなかった。



亀吉はどうやら、梅の木で作ったとみえるあまり丈夫には見えない木刀を持ってきた。



二本あるうちの一本をぼくに、もう一本を亀吉が手に取った。



「こんな木刀で大丈夫であろうか」



ぼくが呟くと亀吉はすかさずそれに応えた。



「大丈夫で御座います。竜宮城ならびに竜宮城下ではいにしへより剣術の稽古にはこの梅の木から作られる木刀を使用しております。


竜宮城近辺の海域で産する梅の木は見た目はもろいのですが、実際そう簡単に折れる代物では御座いません。ゆえに、稽古にはもってこいなのであります」


「そうか。まぁ、竜宮城に長くいる亀吉が申すのであれば、案ずるまでもないな」



「はい。ご安心下さいませ」亀吉は笑みを浮かべながらそう言うと、今度は一転して真面目な顔になって続けた。


「わたくしがこうして顔の前に木刀を構えておりますから、そこを目がけて打って下さりますようお願いいたします。万が一のため今日は防具をつけております。存分に力を発揮していただきとう存じます。」



さっきまで気づかなかったぼくがどうかしていたのか、亀吉は頭に戦国武将がつけていたような黒い兜のようなものをつけていた。しかし、なぜ実戦で使うような兜をつけているのかは今いちわからなかった。



ちなみにぼくはこのように心で思っていることは前と変わらないが、口に出す段になると、侍口調で控え目になるのであった。これもなぜなのか解せぬのであった。