梅林賀琉

「……だいたい、麓にある須弥ヶ原で帝釈天に軍配が上がります。乙姫様はその模様を例年、善見城の天守閣からご覧になられているそうです。しかし……」



亀吉はここでどもった。



「どうした?」


「お腹が……」


「ぼくの真似だろ」


「はい!ライスカレーの食べ過ぎに御座います」



「わかった。いつもの冗談はいいから、早く進めてくれ」



ぼくがそういうとその言葉通り、またすぐ真面目になって話を続けた。



「この度の戦は例年破られなかった帝釈天の連勝記録が塗り替えられようとしているので御座います。まだ、それが何者によるのかわかっておりません。


……と申しますのも、阿修羅だけでは帝釈天の軍勢にかなうわけがないのであります。古来から、帝釈天は三十三天の王とされ、その力に勝る衆生はいないはずであります。


……しかし、例外が御座いまして、もし天界の衆生の中で帝釈天に力で勝る衆生があるとすれば、欲界の最上部に君臨する第六天魔王であるといえます。第六天魔王は他人の楽しみを自分のものにすることができるということから他化自在天と呼ぶ場合も御座いますが。


……このことはとりあえず置いておきまして、もし第六天魔王の仕業だとすれば、落城を免れないのであります……つまり……」


「乙姫様のお身命が危ないということか!」


「そうで御座います!!」



ここで、亀吉もぼくも興奮してつい声が大きくなってしまった。



ぼくら以外誰もいない旅館の踊り場にその声がこだます。さらに、ぼくは続ける。



「何とか食い止める方途はないのか?」


「戦に勝つこと以外に考えが及びませぬ」


「まことか」


「まことに御座います」


「では、それがしもその戦に加わらせていただこう」



ぼくはつい、侍の口調になっていた。



「それは頼もしいことに御座います。浦島様が加われば、千万天人力に御座いましょう」



千万天人力という言葉を聴いて、(どんだけ強いんだよ)と思ったが、いつの間にか武士の魂が入ったぼくはもちろん、そんなことは言わなかった。



むしろ、真面目になって言った。