梅林賀琉

「実はですね。このこと―つまり、お二人がわたしの近くにおられるだけでラジオが壊れる現象が起こるということを教えてくれたのは乙姫様なんですよ。ほっほっほ、あの方はお美しい。わたしはあの方を東洋一の美女だと思うのです」



大統領が熱心に話していると、どこから来たのか十二単に身を固めた乙姫様がぼくの腕をやさしくつかんだ。



いや、包んだと言った方が適切かもしれない。それとつり合わない険しい顔で乙姫様はぼくに命じた。



「壊れかけたラジオ、今修理しているところなの。浦島さん、どうか大統領のもとから離れて下さい。でないと、大変なことになりますわ」



真剣な乙姫様の顔もまた美しいと思った。ぼくはもうこの場で乙姫様に腕を包まれたまま死んでもいいと思った。



うっとりとなっていた。



だが、それとは裏腹な発言がぼくの口からとび出した。



「じゃあ、もっと早く言って下さい!」



その言葉を聞いた乙姫様は非常に残念に思ったらしく、伏し目がちに袂をひらりと振って「冷たいわね……」とひと言遺して、旅館の玄関を開け放って出ていってしまった。まさに、"袂を分かつ"であった。



あとに残されたのはぼくと亀吉だけで、さっきまで大盛況だった一階の踊り場は誰もいなくなってしまった。



もう大統領の姿もない。



「浦島様、これは大変なことで御座います。乙姫様は機嫌を損ねられたのであります……しばらく、わたくしどものもとには戻ってこられないかもしれませぬ」


「そんなにまずいのか?」


「はい。何とかして捜さなければなりません。おそらく、この分だと海からお出になられて、天界に戻られた可能性が御座いますゆえ、善見城にお行き遊ばされたことと存じます」