梅林賀琉

しかし、どう探しても見受けられるのは日本の偉人ばかりで、外国人のそれはルーズベルト大統領ただ一人であった。



それが気になったので、彼のそばに行って問うてみようと思ったが、亀吉に腕をぐっとつかまれた。非力だとばかり思っていた亀吉の握力は意外と強く、つかまれたぼくの二の腕はもげそうになった。



「痛いなっ。そんな強くつかむことはないだろう」


「だって、浦島様が大統領に夢中だから」



そう言って亀吉は口を尖らせた。



「もう、あきた」


「そっ、そんな。あたしを捨てないで」


「生ゴミに捨ててやろうか」


「ひどい……」


ぼくはこんな下らない会話を繰り返しながらも、亀吉の意図するところを質そうと思って話頭を転じた。



「ところで、亀吉がぼくの二の腕を引きちぎらんばかりにつかんだのはなぜだ?」



亀吉はいつになく真面目な顔になって応えた。



「恐れながら、浦島様は大統領に話しかけようとされていたからに御座います」


「話しかけちゃ悪いのか」


「えぇ。ラジオ体操が終わるまで他人に話しかけてはならぬのです」


「変なの。他人といえば、ぼくにとって亀吉だってそれに当てはまると思うんだけどな……まぁ、でもそのことは置いておこう。それで、他人に話しかけたらいけない理由は何なの?」



どうせまた「桃ノ宮旅館規定」なるたいそうな名称のわりに下らない内容の決まりごとが出てくるんだろうと思いながら、訊いてみた。



「ラジオ体操を聴くためのラジオが壊れてしまうからで御座います」



またしても、奇妙なおとぎ話の世界だと思った。なぜ、ラジオが壊れるのか気になったが、それよりもどういうわけかラジオが壊れるという言葉を聞くとあの曲のあの歌手を思い出してしまうのだった。



そして、辺りを見回した。



すると、案の定亀吉はニヤッと白い歯を見せて笑い、「T氏で御座いますか……それが残念ながら……」と言いかけるとさっきまで気になっていた髭面のルーズベルト大統領がなぜか鼻眼鏡を曇らせて亀吉とぼくの目の前に佇立しているのであった。