梅林賀琉

の部分が気になりはしたが、そこは触れないで黙っていた。



黙っているといえば、亀吉がさっきから全く口を利かないが顔はさっきの梅干しからつるつるの青梅のようになっていたので安堵した。



旅館の中に入ると、館内から「おな~り~」と大音量の鈴の音と共に天女らしき女中の声が響き渡った。上がり口の板の間には女中たちがひれ伏していた。



それに驚いているぼくの耳元で乙姫様はささやいた。



「いつもこうなの。生まれてこの方、五百億年変わらないわ。もう慣れっこ。ふふっ」



そんなお茶目な乙姫様が可愛すぎて仕方なかった。



僕は悶絶してその場に倒れ、昏睡した。



気がつくと自分の部屋にいた。なんだ、やっぱり夢だったのかと安心していた。



しかし、次の瞬間、悲劇は昨日と同じぼくの部屋の窓から始まった。



なんと、窓を隔てて赤ん坊のような寝顔をした亀吉が寝ているではないか。



しかし、寝ているとは言ってもベッドではなく、海の中に寸分たりとも動かず、完全に静止した状態で横たわっているのである。



それはもう、不自然極まりないという感じだった。



すると、突然モーニングコールなのかぼくがおとといまで聴いていた洋楽ポップスの曲が流れ、それに続いて部屋のコンポから乙姫様らしき声が聞こえた。



「おはようございます。昨日は浦島様が突然お倒れになられてびっくりしました。もし、起きておられましたら、一階の踊り場にてラジオ体操をおこなうのでお出でになって下さいませ」