梅林賀琉

やっぱり、何だか妙だと思った。



しかし、おとぎ話の世界に入ってしまったのだから仕方ない。



それに、さっきから超高速で海の中を進んでいるにもかかわらず過ぎゆく景色が鮮明に見ることができるのに驚かされた。



珊瑚礁はもとより、竜宮城に近づくに連れて魚の種類も増えていくように感じた。



また、行き交う魚たちに亀吉は信号を送っているように見えた。



気になったので亀吉に訊いてみるとこれは光速信号で、一種の挨拶だという。ほう、とぼくはまたしても感心してしまった。



だが、おそらく深海魚のアンコウだって光を発することはできるが、それを挨拶に使うことはないだろうと思った。



すると、突然亀吉は呟いた。



「使いますよ」


「いま、なぜぼくの考えていることがわかった?」


「亀の甲より年の功で御座います」



この時、山盛りのどんぶり飯を一気に口にぶっこまれた感じになった。まさか、リアル海亀からこのことわざが出ると思わなかった。



しかし、ぼくはその飯をなんとか飲み込んで胃の腑に収めた。海亀ごときに読心術のようなことをおこなうとはやはり強者だな。



だが、ひねくれ者のぼくはなぜだか嫌味な言い方で応えた。



「へぇ~。さすが、一億三千万年も生きているだけあるな。亀の甲より年の功かぁ」



小馬鹿にしたみたいな言い方だったが、亀吉はそれに気づいていないようだった。



「いえ、一億年以上も生きていれば、そのくらいなんてことないので御座います。ほら、もう着きました」


「早い!もう着いてしまったのか。神通力恐るべしだな」


「左様に御座います。それでは浦島様にはここで降りていただきましょう。わたくしは駐甲場に行って参ります。暫しの間、お待ちを……」