何分か待っていても…
綾瀬はベランダから顔を出す事はなかった。
ーー…別に期待したわけじゃない。
会えないなら見れれば充分。
でもこれだと、自分が苦しむだけなんだよな………
でも、1番の方法はこれ。
「ーーー、とうまぁー??ご飯よー!」
母さんの高い声が家中に響く。
俺は綾瀬の部屋をチラッと見て
ベランダから出た。
ーー「「「いただきます。」」」
三人の声が重なる。
…まぁどうせ俺と父さんは無口だ。
気持ちが伝わらない父さんで
父さんのが俺に遺伝したらしい。
でも、母さんは
俺と父さんの事よくわかってくれる。
母さんは喋るが
父さんと俺は「あぁ。」しか言わない。
普通ならみんなそれで黙るはずが…
母さんは気にする様子がなくしゃべり続ける。
「でねー隣の奥さんからトマトもらったから、今日はトマト料理なのよねー♪」
「あぁ。」
「うん。美味しいよ。」
…?
いつもの「あぁ。」が重ならなかった。
俺が「うん。美味しいよ。」と言ったのだ。
その事に、父さんと母さんはびっくり。


