大上くんの過去話をわたしは知らない。
中学校の時は部活何やってたとか、どんなことが好きだったとか思い出話もしたことがない。
───過去は振り返らない主義だから。
いつだか大上くんがそんなことを言っていた。
「その格好でウロウロすんな」
大上くんの声にハッとこちらの世界に意識が戻ってくる。
波の音がにおいが風に乗ってやってくる。
「えっ、いいよ。そんな」
「俺が嫌なんだよ」
大上くんは自分が着ていたパーカを脱いでわたしの肩にかけてきた。
腕を取られ、袖に通すとジッパーを一番上まで上げられる。
自分で着れるのに。
小さい子ども扱いですか。



