「驚かせてごめんっ! でも、そういうつもりじゃなくて! いつもここにいる君を見て、気になってて……あっ、決して変態ではないんだ! えっと、そのっ」


尻餅をつきながら早口にまくしたてる彼をみて、私もすっかり緊張感がなくなってしまった。


「こちらこそ、突然すみませんでした。大丈夫でしたか?」


そう言って手を差し出せば、彼は嬉しそうに笑った。


「ありがとう! えっと……」


目の前の人……確か、長谷川とかいう先輩は何かを窺うように私を見てきた。


「あの……?」


「あっ、ごめん!」


私はちょっと声をかけただけなのに、すぐにおどおどとし始める。


そんな彼を見て、私は思わず笑ってしまった。


すると彼は、最初はキョトンと私を見ていたけれど、次第に一緒になって笑い始めた。


「なんかいろいろかっこ悪いとこ見られちゃったな。……君の名前を聞いてもいい?」


少し緊張気味に訊ねてきた彼に、私は教えていいものか迷ったが、悪い人ではなさそうだし、もう会う機会もないだろうと思い。


「篠崎葵(しのざきあおい)です」


と答えた。