「気分は悲劇のヒロインってね」
バイト先から家に帰る道、私は空を仰いでいた。
今日、偶然店に来た3人の女子高校生たちがりょうの話をしていて。
新しい映画の主演で若手女優と恋人役をやるらしい。
「超お似合いだよねぇ」
「だよね、だよね! あの女優なら亮介あげてもいいかなーって」
「あんたは何様だよ!」
「でもでも、あの2人本当に付き合ってるって噂だよ」
「嘘ぉ! 私の亮介がー!!」
そう言って楽しそうに笑っていた子たち。
涙が、溢れてしまいそうだった。
「ヒロイン、か……」
私も、ちょっと前まではそうだったのかな。
なんてったって、あの長谷川亮介と恋人だったんだから。
でも、ああいう経験ができたことには感謝しなくちゃ。
短い間だったけど、私は普通の女の子でいられた。
本当だったら、別れすら経験しなかったかもしれない。
……その方がよかったかもしれないけど。
こんなに胸が苦しいなんて、思いもしなかった。
それでも、りょうと出会えたこと後悔したくない。
本当に、幸せだったから。
ふと、小さな神社が目に入って足を止める。
「こんなところに神社なんかあったんだ…」
小さいけれど、ちゃんと綺麗にされている。
さわさわと木が風に揺れていた。
「……そうだ、せっかくだし」
――――チャリーン
神様、どうか彼を幸せにしてあげてください………。