いつのことだったのか、もはや定かではない。ずっと昔の話だったのか、あるいはずっと未来の話だったのかもしれない。深い深い海の底で、一際光る王宮があった。
そこには、美しい人魚姫がいた。彼女は2・3日程前、法をやっぶって、水面より顔をだしたそうだ。それからというもの、様子がおかしい。王が罰を言い渡しても、ため息ばかり。
王が心配して私、魔法使いエイリックに訪ねて来られた。
私は、それからずっと姫を見ているが、特に異常はない。ただ疲れただけだろう。ということになった。

「エイリック!!私、人間になりたいの!!」
王子に恋をしたあわれな姫。わたしは、声と交換して、人間になれる薬をやった。
姫はこの世界の笑顔という笑顔をかき集めてきたかのように、嬉しそうに笑って、わたしのはるか頭上へ消えていった。

私は、ずっと水晶で姫の様子を見ていた。王子に見捨てられたあわれな姫。姫の姉たちを使って、剣を届けさせた。姫は、迷うこともなく、海の泡になって消えていった。

私は、薬を飲み、人間になって王子を殺した。 私は、声まで無くして王子に会いにいくとは思わなかった。 だから声を代償にと持ちかけた。彼女は迷わなかった。
私は、王子のかわりに死ぬなんて思わなかった。だから剣をわたした。彼女は迷わなかった。
私は…私は……… ずっと彼女が好きだった。
彼女が薬を欲しがるとき、こころの中で叫んでいた。止めろ止めろと。
剣をわたした時、さぁ帰って来てくれと叫んでいた。 彼女が泡になるときに、私のこころはどうして薬をやったんだと後悔し、嘆いた。 王子を殺した時、 私は、気がついてしまった。今彼女はよろこんではいないことを。
目からどうしようもなく、雨が降ってきた。


君はしっているかい?遠い国の王子様。誰も入れなかった棘の城からお姫様を救いだしたんだって。王子様は魔法使いじゃないかって皆が噂をしている。王子様は強くて頭が良い。なのにいつも淋しい目をして、海を見ているんだ。
なにかきこえるの?

「聞こえる。美しい泡の歌声が聞こえる。」