NA-MI-DA【金髪文学少年の日常】

眠い。


ふぁーと欠伸をして、短くなった煙草をコンクリートの上に落としてくしゃくしゃと踏みつける。


「おい、捨てんな」


微かに苛立ちをおびた声の方を向くと凪人がいた。


「吸い殻、捨てんな。てめぇの始末ぐらい自分でつけろ」


まるで頓着のない真っ黒な寝癖頭を睨みつけて、ナミダは大げさにため息をついた。


「おめぇは、俺の母ちゃんか」


「いや、父ちゃんだ」


「………笑えねぇよ」


父親二人などとんでもない。


一人だけで小学生並に手がかかるのだから。


「ここ来て正解だったな。お前いるかなと思って来てみたんだ」


ナミダは、目下車がせわしなく行き交う歩道橋の上にいた。


道が真っ直ぐに続いていて、かなり遠い場所まで見通せる。


ここは昔から、ナミダのお気に入りの場所だった。


ぼぉーっとするのに最適だ。


「何の用?」


おとなしく自分が捨てた吸殻を拾いながら幼馴染を見上げると、ほい、と一冊の文庫本を渡された。


「これ、新刊。」


「おー、まじか」


自分の目がきらっきら輝くのを感じた。


本の題名は『浮遊する世界』


今現在4巻まで出ているシリーズものだ。


目の前にあるのはその最新4巻。


「借りていいのか?もう読んだの」


「もちろん、買ったその日に読破した」


凪人にはこのくらいの読書量、確かに朝飯前だろう。


「そしてお前は早く『月下の魔術』を俺に寄越せ」


やっぱそれが目的かよとナミダは苦笑いを零した。


ナミダと凪人は凪人の父親の影響で無類の本好きだ。


家がすぐ近所なので、本と共によく行き来をしていた。


訳あって今は、凪人の家には入れてもらえない。


それでも昔の名残りで、別々の学校に通い出した今でも本のシェアをしている。


「ほら、どうぞ」


綺麗に整理されたスクバの中から、幻想的な挿絵の本を取り出して、凪人の手に押し付ける。


凪人は嬉しそうに本に向かって微笑むと、ナミダのスクバを興味深げに覗きこんだ。


「お前って昔からほんと綺麗好きな。金髪野郎のくせに」


「金髪関係ねぇだろ」


ナミダは確かに綺麗好きだ。


身の回りは常に整理整頓してある。


「煙草は捨てやがるけどな」


そう言ってぐっ睨んでくる凪人にあーごめんごめんと手をひらひらさせる。


「もうしません、悪ぶってみただけ。ごめんなさい、お母様」


「………それなら良いけど」


お母様ってなんだよお母様って、とぶつぶつ呟く凪人が、なんか面白かった。