その日、ナミダは初めて、遠藤の泣き声を聞いた。

放課後、委員会の用事で遅くまで残っていたナミダは忘れ物を取りに教室へ向かった。

そこで女の子の泣き声が聞こえて何事かと思えば、遠藤が教卓の後ろでうずくまって泣いていたのだ。

「……どうした」

おどおどと尋ねるナミダに、遠藤は顔を下に向けたまま首を横に振った。

「なんでもない」

「なんでもないのに泣いてるのか」

「……うん」

どうしていいか分からないナミダは、とりあえず遠藤の横に座ってみた。

それから2、3分経った後、遠藤が小さく、「だいっきらい」と漏らした。

「だいっきらい、むかつく。あんな奴ら、死んじゃえばいいのに」

その言葉が持つ激しさに、ナミダは息を呑んだ。

軽口で言うのとはわけが違う。

本物の憎悪が込められていた。

誰に向けられているのかは大方想像がついた。

クラスの女子たちだろう。

クラスの中でもひときわ権力の強いグループの少女たちだ。

ナミダは、震えている遠藤の背中を、そっと撫でた。

一体何があったのか。

何を言われてもいつだって動じない遠藤が、ここまで取り乱すなんて。

「何があったんだよ」

ナミダはもう一度、尋ねた。

「……いつもと同じ」

遠藤は、そっと答えた。

「いつもと同じ。暗いとか、きもいとか、存在がうざいとか、オタクとか。面と向かって言われたわけでもない。いつもと同じで、こそこそ話が聞こえただけ」