NA-MI-DA【金髪文学少年の日常】

中学生くらいの女の子とその母親らしき人が店番をしている本棚に、懐かしい題名を見つけて思わず手にとった。


『ごんぎつね』


言わずもがな教科書の教材の定番である。


ナミダは小学生の頃から、国語だけやたらに得意だった。


その学力はおそらく、読書量に比例しているのだろう。


しかし、得意なのと好きかどうかはまた別の話だった。


問題を読めばだいたい答えは分かる。


しかし、自分で出した答えが気に入らないことがしばしばあった。


小学生だったか、もしかしたら中学生の時かもしれない。


どうしても分からない設問があった。


下線部Aから読み取れる主人公の気持ちにもっとも近いものを次の選択肢から一つ選びなさい。


四つの選択肢があり、それぞれの文は、…悲しんでいる。…怒りを感じている。…寂しく思っている。…清々している。と締めくくられていた。


なぜこんなどうでもいいことを覚えているのか。


ナミダ自身にも謎だが、あの時の困惑の感触は今も思い出す。


文章の内容自体はあまり覚えていないのだが、その時のナミダには選択肢のすべてが正解であるように見えた。


主人公は悲しみながら怒り、寂しく思いつつも清々している。


結局、答えは書かなかった。


馬鹿らしいことこのうえないが、書けなかったのだ。


「ごんぎつねだ。」


遠藤がナミダの手元を覗き込んで言った。


「挿絵が好き。小学生の時、挿絵に見とれて当てられたの気づかなくて怒られた」


にこり、とナミダを見上げて微笑む。


最近、遠藤の笑顔が増えた。


ナミダは遠藤の自由に跳ねまくっている髪に触りたい衝動に駆られ、また困惑した。