「ねぇ、遠藤さんって夏目漱石の『こゝろ』とか好きな人でしょ」


「好きだよ。凪人くんは『人間失格』読んで三日ぐらい失意に悩んだくちの人でしょ」


「うわー、なんで分かんの」


意外のことにと言うべきかやはりと言うべきか、凪人と遠藤は気が合うようだった。


読書好きという共通項がはっきりしているのが良かったのかもしれない。


おかげでナミダはといえば電車の中でひたすら傍聴役に徹していた。


車両の中は空いていて、席は選び放題だった。


「ねぇ、ナミダはずっと金髪だったの」


「いいや、中学は黒髪だった。でも今よりヤンキー臭かった。」


急に話題が自分のことに移り、ナミダは顔をしかめた。


「俺のことなら俺に聞けよ」

「あ、ナミダが妬いてる」

「お前にまかせると俺の過去がおかしな方向に脚色されかねない」

「オブラートに包んでやってるんだ」

「むしろモロ剥ぎしてるよな」


「………漫才だ」


遠藤が感心したように呟いた。