「ナミダ、日曜日、一緒に古本市に行かない?」


次の日の昼休み、遠藤に尋ねられたナミダは、はじめ空耳かと思った。


しかし間違いなく横に立っている遠藤の口が動いて遠藤の声が発せられたのだと理解する。

あいも変わらずの仏頂面だが、口元に微笑みらしきものが浮かんでいるのが見て取れた。


ナミダはまじまじと遠藤を見返した。


まさか、遠藤から誘いを受ける日が来ようとは。


そんな大げさなものではないかもしれないが、相手は遠藤なのだ。


あまりにも不躾に見つめてしまったのだろう。


遠藤の片眉が、器用につり上がる。


「行けないなら、行けないって言ってよ」


「あ、いやさ」


すでに友人と約束していることを話すと、そっか、とあまり感情の読み取れない声音で返された。


そのまま会話のやり場に困り、数秒の沈黙の後ナミダはおずおずと提案した。


「一緒に行かね?三人で」


遠藤の目が驚いたように軽く見開かれる。


いいの、と小さな声で尋ねてくるので、もちろん、と答える。


その時、正真正銘の笑顔が、遠藤の頬を彩った。


一瞬の変化にナミダは思わず見惚れ、数秒後に自分の心理を図りかねて首を傾げた。






さて、勢いで誘ったのは良いとして、凪人にどう説明しようかと軽く悩む。