げ、と思ったのは五限目の後半ぐらい。


ぽつりぽつりと降り始めた雨に、ナミダは小さく顔をしかめた。


今日はあいにく傘を持って来ていない。


一度盗まれて以来、置き傘もしていないので放課後までにあがらなければ濡れて帰るしかない。


そして、雨脚はおとろえるどころか徐々に本格的になっているのは明らかだった。


しょうがないよなぁ。


恐れていた放課後、ざぁざあと容赦のない雨の前で、ナミダは昇降口からどうにも動けずにいた。


しかし、これはどうしようもない。


祖母にわざわざ迎えに来てもらうのは気が引ける。


その前に恥ずかしい。



学校に泊まるのでもないかぎり濡れるしかないのだ。


雨に濡れるのは苦手だった。


もちろん得意な人間などいないだろうが、ナミダの場合は雨に濡れることを少し恐れるようなところがあった。


陰鬱な気分で足を一歩前に踏み出したとき、ぐいっと袖を引っ張られて、ナミダは少しバランスを崩した。


斜め後ろを見下ろすと、遠藤がナミダを見上げていた。


「傘ないんでしょ、入れたげるよ」


無表情なのになんでこいつが言うと偉そうに聴こえるんだろうかと不思議になった。


「いいの?つか家の方向同じだっけ?」


「知らないけど、わたしが君の家まで君を送り届ければいい」


「いや、それは悪い」


遠藤は仮にも女子なのだし。


自分のために遠回りなどさせられない。


「ううん、いいの。お礼だから」


「お礼?」


「うん、昼休みのお礼」


「あ………でもあれは」


機から見ればフォローしたように見えただろうが、ナミダにそんな気はなかった。


遠藤はナミダの言わんとしていることが分かるのか、微笑んで首を横にふった。


そう、ちゃんと微笑んだ。


こいつ、ちゃんと笑えんじゃんと失礼なことを考えているナミダに遠藤は言った。


「君がどういうつもりだったのでも、かまわない。ありがと」


「あ…うん」


本日二度目の気恥ずかしさを覚えながら、ナミダは小さな声でうなづいた。