私は彼の指示で鞍に付いてるホルダーを両拳で掴むと、彼が右足で馬の腹を蹴った。その合図に反応し、馬が走り出す。

「うわぁ!」
その勢いで思わず、後ろに傾く。
前に両腕を伸ばし、手綱を持っていたゼフェルが今度は左腕を私のお腹に巻きつけ、私を後ろから支える。

「は!!」と彼が気合を入れると更に馬の速度が加速する。
こんな早いスピードを今まで経験したことがないため、絶対一人で乗ってたらほんの数分足らずで落馬していただろう。
しかし今、彼の力強い左腕が私をガシっと支えているため、私は前を見て乗馬を楽しむことが出来る。
彼が言葉を発するたびに顔を近づけてくるので私の右耳に彼の息が吹きかかる。そして背中からは常に彼の温もりを感じる。
この至近距離に私の胸の高鳴りは終始穏やかではなかった。

間も無くするとカジャダン市場の賑わいが遠くから聞こえてきた。
まだ、市場からは離れているけど、そこへと続く砂利道が見えてきて、私はその手前にひっそりと佇む古びた店を指さした。
「あ、あそこです。カタールおじいさんの武器屋が見えました!」

彼は店の前でブレーキをかけると馬からヒョイっと降りた。
私は、左側の鐙に重心をかけ、勢い良く右足を後ろに180°回転させ、彼にお尻を向けるかたちをとるよう指示された。
鞍に重心を預けるとゼフェルが私のお腹を両腕で抱きかかえ、地面にふわっと降ろした。

すると彼はそのまま私を後ろから抱きしめた。彼の頬が私の頭につき、ドキッとした。
「悪かったな。」
「え?」
突然謝られて戸惑っていると
「花・・・吹っ飛んじゃっただろ」と言われて、
肘にかけてた花籠の中に、ほとんど花が残ってないことに気づいた。

「あ・・・」折角集めたのに・・・。
「でも、ここまで案内ご苦労。助かったよ」
そう言うと彼は私を開放した。


私はお辞儀をするとその場を駆け足で後にした。

彼の高い身長、鍛えられた体、私を抱き抱える腕。そして鋭く光を放つどこか冷たい緑色の瞳・・・・

もし恋をするならあれ位格好良くて逞しい男の人が良いなぁ…。と私の頭の中は彼でいっぱいになった。

「また、彼に会えないかなぁ。」
私は冷めない興奮のままシャーゼの家に向かった。