「鈴川」
和田が落ち着いた声で俺を呼んだ。
生ぬるい風が吹いている。
それは和田の綺麗な髪を揺らしており、いつもよりかっこよかった。
「立ってるの疲れるだろ、座れよ」
「う、うん」
和田に言われて端っこにある自分の席に座った。
それに続き和田も自分の席に座った。
俺は外を眺めていた。なぜか目を合わせられないんだ。
「鈴川」
和田はもう一度俺を呼んだ。さっきより落ち着いていて、低い声だけどどこか暖かくて。
「何」
それに対して俺は冷たい返事。ずっと外を眺めているだけ。
「こっち向けよ」
目が少し開いたような気がする。さっきまで閉じかけていた目が、少し、ほんの少しだけ。
「なあ」
俺は少し横を向いた。
これが精一杯だ。
「これでいいかな」
こんな口調久しぶりだ。いつも男っぽい口調だったのに…
「もうちょっとこっち向いて」
…目を合わせってか。西園寺達に言いたいこと言うときも俺はちゃんと目を合わせていなかった。人と目を合わせるのは苦手なんだ。
でも、でも…和田に言われると少しだけ横を向けるような気がするんだ。
頑張ろう。少しだけ頑張ろう。
「うん、それでいい」
俺の目には和田がいる。真正面に和田がいる。
和田の目が見える。
そういや、和田って毎日俺に話しかけてくれたっけ。俺は冷たい返事で返してるのに和田は話しかけてくれた。
そんな和田が目の前にいるんだ。