「あんたは?」

「へ?」


「私の背中…どうなのよ…」

シェリーが立ち上がると後ろを向きタオルを湯の中に落とした


「あんたは……こんな背中を目の前にしてまだ愛せる奴がいると思うの?」

シェリーの肩は小刻みに震えている


湯から出たから感じる寒さではない

トラウマと向き合うこと

また拒絶されるかもしれないこと

嘘で固められた優しさを掛けられること

少しだけ惹かれた相手に裏切られること



いくつもの不安がシェリーの心を弱らせ、怯えさせる





世の中にあるありふれた言葉はもちろん、忘れ去られたような言葉を合わせても…シェリーに響く言葉はほんのわずかだ


その言葉を言えるのは世の中に数人しかいないような…そんな確率


幸大には言えないだろう


いや、いつかは思い付く言葉かも知れない


だが、たかだか15、6年生きただけの彼にシェリーの今までのトラウマをぶち壊す言葉は言えない


愛の言葉も

慰めの言葉も

励ましの言葉も

哀れみの言葉も

同情の言葉も



シェリーに響く言葉は幸大の思考にはない




だが…幸大は己の無力も知っている


今の自分の言葉は無力…トラウマを壊すこともできない…



だから、彼は言葉を発しない