ここ何日か続いている、魂を千切るような叫び声に目を覚ます。
彼女はまだ物語を書き終わらないようだ。


「やれやれ。そろそろ墨が切れる頃だと思うんですがねぇ。」




揺り椅子から身を起こして彼女の元へむかう。
そこにいたのは、髪を振り乱し半狂乱になった少女の姿。あの可愛らしい面影はどこにもない。少女の逃げようとする身体に反して、右手に握られた筆はさらさらと筆が動き続けている。
叫び声はもはやなんの意味もない音の羅列になり、もはや何を言ってるのかさえわからない。





「ふう。やはり子どもの願いを叶えるのは心が痛みますね。
ですが、自分で選んだことですから........頑張ってくださいね。」



彼女に込められたマスターの想いを墨にして、己の自由にできる文字を紡ぐ。
それは文字通り身を削って文字を紡ぐことになる。
そして、全て削り終わったなら。



「ああ。今回はどんな物語になるのでしょう。」




彼らがどうなっているのか。
それはティアマトさえわからない。
ティアマトはただ、己の知っている方法を彼らの願いを叶えるために提供するだけだ。




叫び声が唐突に止んだ。
またひとつ願いが叶えられたようだ。








【迷子のゆめ 終】