牢屋に近付くに連れ、誰かが歌っているのが聞こえてくる。


男声だが綺麗に響く歌を聞きながらガブリィは牢屋への扉を開ける。


「ラーララー……………なんだ?ガブリィ」


気配を察知したのか不意に歌をやめる。


「………前から気になっていたのだが、何故名前が分かっている?」


「あぁ、それはあんたが気絶中に名前らしきもんが書いたもんがポッケの中にあったからな」


「裸にしたのか?ん?」


ノードリームの切っ先がマルコに少し刺さる。


「OK、刺さってるからやめてくれ。ちなみにズボンの後ろポッケだ。裸にはしてない」


ノードリームを鞘に戻し、整然な態度をとるガブリィ。


「………今日の話に出ていたセイレーンの話だが…………」


あぁ……それね………とマルコは少し、声のトーンが低くなる。


聞いてはイケない事なのか?と、ガブリィは少し気が引けたがマルコは気にせず口を開く。


「死んだよ。四年半かな。そんくらい昔に」


「…!………船の中でか?………」


「…………」


マルコは黙る。その目は疑いの目ではなく、何かを諦めたような目だった。


沈黙の後、マルコは口を開く。


「俺が船に行ったときにゃ既に事切れてたよ。船長、セイレーンの他に、船員が全員、ガキもいた。半魔だったな。セイレーンの子供だとすぐにわかった。そりゃぁ悲惨だったね。ブラッドバスならぬブラッドシップだね、ありゃ。ゴーストシップの奴らもションベンちびるくらいかな。まったく、結婚祝いが手向けになっちまった」


ガブリィは夢で見た光景を思い出す。


見渡す限りに血、黒く酸化した血、まだ紅く綺麗な血。


あれは本当にあった事だと知り、青ざめる。