「…え…」
微かに真木が目を見開いたのが分かった。
「A大じゃないんですか?」
「…真木さ。こないだあたしに、何で高校で剣道部に入らなかったのかって聞いたよな」
「…はい。怪我って」
「確かに怪我も一つの理由で、きっかけだった。
…でも、本当は怪我なんてとっくに完治してる」
怪我をした時、あたしはどっかでホッとしたんだ。
「…あたしは怪我を理由に、剣道から逃げた」
これで逃げられる、って。
「…逃げた?」
「中学3年の最後の全国大会。準決勝―――」
相手は、ほぼ互角の相手。
先鋒から大将まで全員が引き分けで、勝負は代表者戦に持ち込まれることになった。
代表者戦には、その当時主将だったあたしが出ることになった。
「あたしは内心、どっかでいけるって思ったんだ」
代表者で出てきたのは、先程の大将戦で戦ったばかりの相手。
さっきの試合で面に旗が一本上がったから、あたしはどこかで、勝てる自信があった。
…それが油断に繋がった。
中学3年、最後の夏。
あたしのせいで負けた。



