「…お疲れさんだったな、爽月。
どうだった先生初体験は?」
子供たちが帰った後。
道場で親父と二人で竹刀の点検をする。
「…あー。楽しかったよ。意外にも」
「ハハ、そうか」
「……なぁ親父」
スッと目の前に一本の竹刀をかざす。
あたしが中学の時に使ってた竹刀。
…卒業以来、はじめて触った。
「…あたし
もう一度向き合いたい」
「……」
親父が無言で、あたしを見たのが分かる。
「…許してくれる?」
あたしが、高校では剣道部に入らないと言った時。
親父は黙って「そうか」とだけ言った。
「…そんなに甘いもんじゃないぞ」
「…分かってる。
でも」
あの時は、親父の目を見れなかった。
でも今はまっすぐに
親父の目を見て、話すことができる。
「あたし、もう逃げないって自信があるよ」
「…そうか」
親父は持っていた竹刀を置いて立ち上がると
「…自分で決めた道だろ。
あとは自分の足で歩いてけ」
あたしはその時ようやく
まっすぐに
あの夏と向き合えたような気がした。



