夕飯を食べてから少し経った頃…。

ーコンコンッー

部屋のドアがノックされた。
「…入っていいぞ。」
誰だかわからなかったが、俺に用があるのなら入ってもらってかまわない。
「遠慮なくお邪魔させてもらうよ。」
俺の返事からすぐに部屋のドアが開き、入ってきたのは…。
「なんだミサキか。」
声でなんとなくミサキだとはわかっていたが…。
「忘れ物か?」
相変わらず気味が悪いくらい完璧な笑みなミサキ。俺の質問には、まぁ…そんところ、と濁しながら答える。
ちょうど10分くらい前に寝巻きを忘れたと言って取りに来たミサキ。まだ何か用だろうか。なぜか嫌な予感しかしないのだが…。
「まぁまぁ。そんなに怪しがらないでも…。二人揃って僕をなんだと思ってるんだか…。」
大袈裟なため息をついてみせるミサキ。
俺の心を見透かしているかのようだ。
…というか。…ん?待てよ?
「……二人?…何のことだ?」
ミサキの言葉に引っかかった。
俺の疑問にミサキは表情一つ変えることなく、こっちの話、とだけ言って小さく笑った。
よくわからないやつだ。
「そんなことより、舞尋。」
首を傾げる俺に少し食いぎみに近寄るミサキ。
多少驚いたが、そんなことお構い無しにミサキは続ける。
「報告に来たんだ。今、七瀬の部屋に行ったんだけど…。」
ー…ピクッー
不意に出てきた名前に思わず反応してしまった。ミサキの様子だと俺の反応には気づいてないようだ。
落ち着け、俺。……ん?でも、なんでミサキが七瀬の部屋なんかに…。
考える俺にミサキが気づいた。そして再び心を見透かされたかのように…。
「あ、安心して。舞尋が心配するようなことは何もしてないから。」
「っ‼はっ…はぁ?別に何も心配してねぇよ。」
「あ…そう?まぁ、いいけど。」
正直ビビったが、なんとか誤魔化す。
「つか、用件は何なんだよっ。さっさと言えよ。」
これ以上ボロを見せるなんてごめんだ。
「あ、そうそう。それでさ。七瀬も寝巻き忘れたっぽいんだよね。」
ニコニコというよりはニヤニヤしながら俺の様子を伺うミサキ。
「七瀬は余分に持ってきた服とかで寝巻き代わり作っちゃうかもだけど、一応貸してあげた方が良くないかな、と思って。」
毎回毎回お望み通り動揺なんてしてやるわけねぇだろ。
ミサキの視線に平然と返す。
「あぁ、わかった。後で俺の持って行っとくから。用件がそれだけならお前は風呂入って来い。」
お望み通りの反応ではなかったようで、ミサキはあまり面白そうではなかった。
「なーんだ。まぁ、いいや。あ、でも七瀬さっき部屋出てたから多分お風呂入るんじゃない?今出たから持って行った方が良いと思う。じゃっ、僕はお風呂入ってきます。」
「ん。報告ご苦労。」
ミサキにしてはあっさり引き下がった気もするが…。
まぁ、考えすぎか。というより、七瀬の寝巻き用意しなくちゃならねぇし。あっさり引き下がってくれることに越したことはない。
ミサキが部屋を出て行ったのを確認して俺は七瀬に貸す寝巻きを用意する。
一番小さいサイズの寝巻きを畳み直してから、俺も部屋を出た。